TAMAKAWA UPCYCLING BASE
建築群を通した環境との対話
福島空港にほど近い福島県石川郡玉川村に建つ、鉄骨造作業場と石蔵、農家のリノベーション。
2019年10月に福島地方を襲った大型台風により阿武隈川が氾濫し、郡山市は広範囲にわたって浸水した。その対策として阿武隈川上流に350haの遊水地を設ける計画が策定され、約150戸の家屋と耕作地の移転が決まった。この計画によって、故郷の生活の風景が失われてゆくことに心を痛めた建主は、解体される家屋の構造材、造作材、建具、家具などを収集、加工、売買できるアップサイクルの拠点をつくることを思いたった。この拠点は、日常生活でのちょっとしたものづくりから、常駐する職人による古材加工や木工指導など、古材と木工機械のもとに幅広い人たちが集まる、地域コミュニティの場としてイメージされた。 鉄骨造の作業場は工房に、石蔵は材料や古家具を展示するギャラリーに改修する。この拠点を、できるだけ古材をアップサイクルしてつくる。古材としては、既存建物の解体材、移転対象となった建主の倉庫にストックされていた木材や家具などがあった。なるべく再製材をせず、太鼓梁なども手懐けながら、新材だけでは決してできない、かといって古材にすべての決定を委ねないことで生まれる、古材と新材が緊張感を持って融合する美しさを目指した。早速、完成した工房で古材を加工し、隣接する農家をワークスペースに改修した。廃墟になりかけていた建物群は、新たな環境へと変貌した。
3棟の建築を順に改修することになった本プロジェクトに限らず、私たちはサラブレッド牧場の建築群(2014年~)や酒蔵の建築群(2016年~)のように、時間をかけて複数の建築を設計するプロジェクトに携わっている。これらのプロジェクトは、地域のコミュニティづくりや生業の観点から、建築群を含むより大きな環境を維持・再編することが目的である。そのため、その環境の成り立ちや生業との関係をつかみ、環境に内在する言葉を探そうとするが、その作業は設計行為を通して行う。設計行為は、環境とのユニークな対話であり、独創性のあるリサーチであり、結果として新しく加わった建築と環境の相互作用を観察し、批評することのなかに大きな学びがある。したがって、全体像はラフかつ冗長に描くに留め、ひとつずつ順番に愚直に設計し、無理にすべてを計画しないことを心がけている。設計行為を通して得られた新しい情報をフィードバックしながら、ラフな全体像は適宜修正されてゆく。そのやり方は、環境づくりに(適切な)時間をかけている間に、クライアント自身も社会情勢も変化していくことを考慮しても理に叶う。修正を続ける運動自体に意味があるとも言えるが、その本質は、建築の寿命以上に環境を維持運営していくことにある。
建築群の設計では、消極的な意味ではなしに、多くの問題をひとつの建築で解決する必要がない。いや、むしろそうしないほうがよい。複雑なプログラムのパッケージングによる創発性よりも、個性を持った建築の群れによる創発性の方が、より環境に広く働きかけることができる点で可能性を感じている。そのためにそれぞれの建築はできるだけ役割に忠実にあろうとし、その個性を表象する方がよい。それが未来の冗長性と、豊かな風景に繋がることを、この異質な3棟が織りなす環境が体現している。
福島空港にほど近い福島県石川郡玉川村に建つ、鉄骨造作業場と石蔵、農家のリノベーション。
2019年10月に福島地方を襲った大型台風により阿武隈川が氾濫し、郡山市は広範囲にわたって浸水した。その対策として阿武隈川上流に350haの遊水地を設ける計画が策定され、約150戸の家屋と耕作地の移転が決まった。この計画によって、故郷の生活の風景が失われてゆくことに心を痛めた建主は、解体される家屋の構造材、造作材、建具、家具などを収集、加工、売買できるアップサイクルの拠点をつくることを思いたった。この拠点は、日常生活でのちょっとしたものづくりから、常駐する職人による古材加工や木工指導など、古材と木工機械のもとに幅広い人たちが集まる、地域コミュニティの場としてイメージされた。 鉄骨造の作業場は工房に、石蔵は材料や古家具を展示するギャラリーに改修する。この拠点を、できるだけ古材をアップサイクルしてつくる。古材としては、既存建物の解体材、移転対象となった建主の倉庫にストックされていた木材や家具などがあった。なるべく再製材をせず、太鼓梁なども手懐けながら、新材だけでは決してできない、かといって古材にすべての決定を委ねないことで生まれる、古材と新材が緊張感を持って融合する美しさを目指した。早速、完成した工房で古材を加工し、隣接する農家をワークスペースに改修した。廃墟になりかけていた建物群は、新たな環境へと変貌した。
3棟の建築を順に改修することになった本プロジェクトに限らず、私たちはサラブレッド牧場の建築群(2014年~)や酒蔵の建築群(2016年~)のように、時間をかけて複数の建築を設計するプロジェクトに携わっている。これらのプロジェクトは、地域のコミュニティづくりや生業の観点から、建築群を含むより大きな環境を維持・再編することが目的である。そのため、その環境の成り立ちや生業との関係をつかみ、環境に内在する言葉を探そうとするが、その作業は設計行為を通して行う。設計行為は、環境とのユニークな対話であり、独創性のあるリサーチであり、結果として新しく加わった建築と環境の相互作用を観察し、批評することのなかに大きな学びがある。したがって、全体像はラフかつ冗長に描くに留め、ひとつずつ順番に愚直に設計し、無理にすべてを計画しないことを心がけている。設計行為を通して得られた新しい情報をフィードバックしながら、ラフな全体像は適宜修正されてゆく。そのやり方は、環境づくりに(適切な)時間をかけている間に、クライアント自身も社会情勢も変化していくことを考慮しても理に叶う。修正を続ける運動自体に意味があるとも言えるが、その本質は、建築の寿命以上に環境を維持運営していくことにある。
建築群の設計では、消極的な意味ではなしに、多くの問題をひとつの建築で解決する必要がない。いや、むしろそうしないほうがよい。複雑なプログラムのパッケージングによる創発性よりも、個性を持った建築の群れによる創発性の方が、より環境に広く働きかけることができる点で可能性を感じている。そのためにそれぞれの建築はできるだけ役割に忠実にあろうとし、その個性を表象する方がよい。それが未来の冗長性と、豊かな風景に繋がることを、この異質な3棟が織りなす環境が体現している。
TAMAKAWA UPCYCLING BASE
建築群を通した環境との対話
福島空港にほど近い福島県石川郡玉川村に建つ、鉄骨造作業場と石蔵、農家のリノベーション。
2019年10月に福島地方を襲った大型台風により阿武隈川が氾濫し、郡山市は広範囲にわたって浸水した。その対策として阿武隈川上流に350haの遊水地を設ける計画が策定され、約150戸の家屋と耕作地の移転が決まった。この計画によって、故郷の生活の風景が失われてゆくことに心を痛めた建主は、解体される家屋の構造材、造作材、建具、家具などを収集、加工、売買できるアップサイクルの拠点をつくることを思いたった。この拠点は、日常生活でのちょっとしたものづくりから、常駐する職人による古材加工や木工指導など、古材と木工機械のもとに幅広い人たちが集まる、地域コミュニティの場としてイメージされた。 鉄骨造の作業場は工房に、石蔵は材料や古家具を展示するギャラリーに改修する。この拠点を、できるだけ古材をアップサイクルしてつくる。古材としては、既存建物の解体材、移転対象となった建主の倉庫にストックされていた木材や家具などがあった。なるべく再製材をせず、太鼓梁なども手懐けながら、新材だけでは決してできない、かといって古材にすべての決定を委ねないことで生まれる、古材と新材が緊張感を持って融合する美しさを目指した。早速、完成した工房で古材を加工し、隣接する農家をワークスペースに改修した。廃墟になりかけていた建物群は、新たな環境へと変貌した。
3棟の建築を順に改修することになった本プロジェクトに限らず、私たちはサラブレッド牧場の建築群(2014年~)や酒蔵の建築群(2016年~)のように、時間をかけて複数の建築を設計するプロジェクトに携わっている。これらのプロジェクトは、地域のコミュニティづくりや生業の観点から、建築群を含むより大きな環境を維持・再編することが目的である。そのため、その環境の成り立ちや生業との関係をつかみ、環境に内在する言葉を探そうとするが、その作業は設計行為を通して行う。設計行為は、環境とのユニークな対話であり、独創性のあるリサーチであり、結果として新しく加わった建築と環境の相互作用を観察し、批評することのなかに大きな学びがある。したがって、全体像はラフかつ冗長に描くに留め、ひとつずつ順番に愚直に設計し、無理にすべてを計画しないことを心がけている。設計行為を通して得られた新しい情報をフィードバックしながら、ラフな全体像は適宜修正されてゆく。そのやり方は、環境づくりに(適切な)時間をかけている間に、クライアント自身も社会情勢も変化していくことを考慮しても理に叶う。修正を続ける運動自体に意味があるとも言えるが、その本質は、建築の寿命以上に環境を維持運営していくことにある。
建築群の設計では、消極的な意味ではなしに、多くの問題をひとつの建築で解決する必要がない。いや、むしろそうしないほうがよい。複雑なプログラムのパッケージングによる創発性よりも、個性を持った建築の群れによる創発性の方が、より環境に広く働きかけることができる点で可能性を感じている。そのためにそれぞれの建築はできるだけ役割に忠実にあろうとし、その個性を表象する方がよい。それが未来の冗長性と、豊かな風景に繋がることを、この異質な3棟が織りなす環境が体現している。
福島空港にほど近い福島県石川郡玉川村に建つ、鉄骨造作業場と石蔵、農家のリノベーション。
2019年10月に福島地方を襲った大型台風により阿武隈川が氾濫し、郡山市は広範囲にわたって浸水した。その対策として阿武隈川上流に350haの遊水地を設ける計画が策定され、約150戸の家屋と耕作地の移転が決まった。この計画によって、故郷の生活の風景が失われてゆくことに心を痛めた建主は、解体される家屋の構造材、造作材、建具、家具などを収集、加工、売買できるアップサイクルの拠点をつくることを思いたった。この拠点は、日常生活でのちょっとしたものづくりから、常駐する職人による古材加工や木工指導など、古材と木工機械のもとに幅広い人たちが集まる、地域コミュニティの場としてイメージされた。 鉄骨造の作業場は工房に、石蔵は材料や古家具を展示するギャラリーに改修する。この拠点を、できるだけ古材をアップサイクルしてつくる。古材としては、既存建物の解体材、移転対象となった建主の倉庫にストックされていた木材や家具などがあった。なるべく再製材をせず、太鼓梁なども手懐けながら、新材だけでは決してできない、かといって古材にすべての決定を委ねないことで生まれる、古材と新材が緊張感を持って融合する美しさを目指した。早速、完成した工房で古材を加工し、隣接する農家をワークスペースに改修した。廃墟になりかけていた建物群は、新たな環境へと変貌した。
3棟の建築を順に改修することになった本プロジェクトに限らず、私たちはサラブレッド牧場の建築群(2014年~)や酒蔵の建築群(2016年~)のように、時間をかけて複数の建築を設計するプロジェクトに携わっている。これらのプロジェクトは、地域のコミュニティづくりや生業の観点から、建築群を含むより大きな環境を維持・再編することが目的である。そのため、その環境の成り立ちや生業との関係をつかみ、環境に内在する言葉を探そうとするが、その作業は設計行為を通して行う。設計行為は、環境とのユニークな対話であり、独創性のあるリサーチであり、結果として新しく加わった建築と環境の相互作用を観察し、批評することのなかに大きな学びがある。したがって、全体像はラフかつ冗長に描くに留め、ひとつずつ順番に愚直に設計し、無理にすべてを計画しないことを心がけている。設計行為を通して得られた新しい情報をフィードバックしながら、ラフな全体像は適宜修正されてゆく。そのやり方は、環境づくりに(適切な)時間をかけている間に、クライアント自身も社会情勢も変化していくことを考慮しても理に叶う。修正を続ける運動自体に意味があるとも言えるが、その本質は、建築の寿命以上に環境を維持運営していくことにある。
建築群の設計では、消極的な意味ではなしに、多くの問題をひとつの建築で解決する必要がない。いや、むしろそうしないほうがよい。複雑なプログラムのパッケージングによる創発性よりも、個性を持った建築の群れによる創発性の方が、より環境に広く働きかけることができる点で可能性を感じている。そのためにそれぞれの建築はできるだけ役割に忠実にあろうとし、その個性を表象する方がよい。それが未来の冗長性と、豊かな風景に繋がることを、この異質な3棟が織りなす環境が体現している。