建築夜楽校1/愛される建築のために

2日。建築学会主催の建築夜楽校2008に参加してきました。
二夜にわたるテーマは「グローバル社会における『建築的思考』の可能性」。
シンポジウム第一夜は「タワーマンションとグローバル・シティ」。

自宅のある武蔵小杉に出現したタワーマンション。東京に出てきてわずかの間に目の前の風景は激変。
その一部始終を体感した。

パネリスト
 ・迫慶一郎氏/SAKO建築設計工社代表
 ・大山顕氏/サイト「住宅都市整理公団」主宰
 ・山梨知彦氏/日建設計設計部副代表
 ・北典夫氏/鹿島建設・プリンシパルアーキテクト
コメンテーター
 ・東浩紀氏
司会
 ・南後由和氏
 ・藤村龍至氏
アトリエ系、組織事務所系、ゼネコン系、ライターなどバックグラウンドも建築にたずさわる状況もみな異なる。それぞれが意識的に自分を位置づけるプレゼンを行ってくれたので、立場の違いが明確になる。
主張を要約すると…
 ・迫氏は中国を中心にタワーマンションなど超大規模プロジェクトを手がけ、東京の約三倍というスピードのなかで建築をつくる困難や先鋭化する問題を語り、「強い建築」を目指していると述べる。
 ・大山氏は”観察者”として工場や団地、ジャンクションなどある種都市の中で自然化したように見える都市構造物への萌えを語る。この”自然化したように見える”ということが後に重要な論点になる。
 ・山梨氏は様々な条件を再構成し、建築を含めた全体をシステムとして提示することが自分のやるべきこと だと語る。最適解の集合として提示されるシステムは、タワーマンションという前提を受け入れながらも既存の枠組みを改変しつつ新しい可能性を示唆。作家としての自分自身では完結しない広がりを持つと語る。
 ・北氏は建築的美学という観点からタワーマンションを手がけ、商品としてのマンションの要望を満たしながらも、建築の佇まいやプロポーション、ディテールなどに現れる、美しいということのサステナビリティを語る。
議論の構図上、皆それぞれの役割を意識して自分のスタンスを明確に表現しており、東氏・南後氏・藤村氏を交えた議論が進む中でしだいに論点が明確になってくる。
大山さんの萌える基準についての議論は、人間のコントロール下にあるものに対して抱かれる”美”と、人間のコントロールが及ばないものに対して抱かれる”崇高”の話へ発展し、もはやコントロール不可能な金融や経済の論理から生まれるタワーマンションなどの建築を建築家が作家としてどうコントロールするかという問いは無効であるということが明らかになっていく。
ではそのようなコントロール不可能な力の前で建築家がすべきことは何か。
それはグローバルで巨大な力によって生まれんとする建築を、前提を再構成しながらできるだけサステナブルなものとしてその場に定着させることではないか。そしてそこで生まれる差異が、自動的にできてしまうように見える建築をその場に位置づかせる契機になるのではないかということまでは共有されていたと思われる。各々の建築家を見てみると、設計のアプローチは異なれど、それぞれに自分の信じるサステナビリティへの関心がうかがえる。
迫氏の言う「強い建築」は、都市化が猛スピードで進み、周囲が変化し続けるであろう中国において彼が見出した、ある種規格化された設計手法やグラフィティカルなファサード表現など、周辺の開発を誘導し、かつ周辺住民に受け入れられるための戦略である。
山梨氏の言うシステムはタワーとして計画されていたものが最終的に低層のボリュームに再構成されたなど、建築的思考が持続性のあるシステムを生み、プロジェクトの在り方を変えた飯田橋ファーストビルの例が強い説得力を持っていた。(しかし、建築の発想がユーザーとオーナーという立場からに特化しているように見え、できたシステムそれ自体は完結するように見えたのが気になった。)
北氏が主張する美しさのサステナビリティは、地域性との関係について明確な話はなかったが、建築が都市にどう現れるのかという関心は山梨氏と対比的に見ても興味深い。
それぞれのサステナビリティに対する取り組みがグローバリゼーションと地域性を考えるうえでひとつのポイントになる。今回のテーマ、タワーマンションというビルディングタイプを通して先鋭化した問題の一つは、サステナビリティと地域性であった。
言い換えれば皆それぞれに「愛される建築」を目指していると言える。これは当たり前のように思えて、実はとても本質的な認識なのではないかと思う。愛されるとは位置づくということ。位置づけば建築を使う主体や使われ方は発見される。グローバルなフローによって生まれる建築の持続性の鍵はローカリティにある。ひとまずその認識のもとに、どういった可能性が見出せ、どんなローカリティが建築の設計時に先鋭化するのか興味がある。またその際に、経済や法規といった実際の様々な深層的条件と直接対峙することのできない学生の立場としてどういうスタンスをとることができるのか、考えてみたい。
様々な立場で実際に設計に関わっている方のレクチャーは本当に刺激的で興味深かった。
次回の「ショッピングセンター」が非常に楽しみです。

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